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執筆者の写真Akagi Lab

SNS時代の大学運営: 思考の言語化と可視化を活用したブランディングと情報発信

更新日:2月1日


■はじめに - SNSは「思考の言語化」の最高の訓練 -

私は2020年4月に本学に着任しました。2020年4月といえば、新型コロナウイルスのパンデミックにより、日本で初めて緊急事態宣言が発動された時期でした。私も着任と同時に在宅勤務となり、日々オンライン授業の動画作成に追われていました。


しかし、朝から晩まで動画作成するのはなかなか辛いものでした。そんな時、自分もSNSで情報発信をしようと思い立ちました。以前からSNSのアカウントは持っていましたが、公開範囲は友人のみで、広く世間に向けた発信はしていませんでした。この時初めて、実名で、ロックをかけず、広く情報発信を始めました。


選んだSNSはLinkedInです。LinkedInはビジネス特化型のSNSで、主に企業の方が利用されています。ユーザー層が社会人であるため、いわゆる「炎上」などしにくい安全性の高いSNSだと感じています。当時、大学教員がLinkedInを利用しているのは珍しい、とのことで編集部からインタビューして頂く機会もありました。


LinkedInを通して情報発信する中で、SNSは「思考の言語化」の最高の訓練であることに気づきました。私が考える「SNSの活用方法」は、別の記事で紹介していますので、ぜひご覧ください。


こちらのブログでは、SNSと本学の大学運営に焦点を絞り、思考の言語化と可視化を活用したブランディングと情報発信について、私の考えを紹介したいと思います。


■「なぜ本学は学生を確保しないといけないのか?」

まず本学教員として、以下の問いを立ててみました。


「本学はなぜ本学へ進学する学生を確保しないといけないのか」


多くの方が「何を今さらそんなことを」と思うことでしょう。少子高齢化が進む我が国では、年々18歳人口が減少しています。近隣大学とは学生集めで競合関係にあり、定員を確保しないことには大学が成り立ちません。だからこそ、皆で必死になって本学を魅力ある大学にしようと一丸となって取り組んでいるわけです。しかし、これは日本全国の大学が抱える共通の状況です。そこで、試しに冒頭の問いを、次のような問い方に変えてみました。


「本学は学生を確保して、何を成し遂げたいのか?」


いかがでしょうか。こう考えると、今まで「一般的な課題」だったものが、途端に「本学特有な課題」へと変化し、非常に深い問いになります。まずこの問いに取り組む前に、少し課題をスケールダウンして、「赤木は赤木研の学生を確保して、何を成し遂げたいのか?」を考えてみたいと思います。


■「何を成し遂げたいのか?」-私のビジョンの言語化と可視化-

私は2020年に本学生命環境化学科に着任し、初めて一人で研究室を主宰することになりました。これまでの研究や活動を振り返り、改めて自身のビジョンを明確に「言語化」したいと考えました。あれこれ考えた結果、「日本の国際競争力の強化」を私の大きなビジョンとしました。


近年、日本の科学研究が失速したと言われています。それに伴い、我が国の国際的な競争力も低下していると指摘されています。私は「研究を通した人材育成」と「若手の海外留学促進」の二つを実現することで、日本の国際競争力を向上させたいと考えています。なぜここを改善しないといけないのかは、私のブログ「高校生・受験生の皆様へメッセージ」で詳しく紹介しています。ぜひ、そちらをご覧ください。


こういったビジョンは「可視化」もまた非常に重要です。自分の思考を説明するにはイラストなどで、一目で理解してもらう仕組みも大切です。ただここで問題になるのは、イラストを利用した「可視化」はセンスが問われてしまう、という点です。ここを解決するために、私はグラフィックコミュニケーターの安積津友香さんに相談し、私のビジョンを分かりやすく親しみやすいタッチで表現してもらいました(図1)。


図1.Akagi Labのビジョンの可視化


■SNSを活用した情報発信

このように私は「研究を通した人材育成」と「若手の海外留学促進」を推進することで、日本の国際競争力を強化したいと考えています。そのためには、育成すべき人材が私のもとに集まってもらうことが肝要です。つまり、私「赤木紀之」および所属する「福岡工業大学」を、もっと世間に知ってもらい、私のビジョンに共感してくれる人に集まってもらう必要があります。


そこで活用すべきはSNSです。SNSはほぼ無料で利用することができ、誰でも手軽に情報発信できます。特に若い世代は普段からSNSを活用しているため、テレビCMよりもよっぽど効果的だと感じています。


■情報発信はセルフブランディング

SNSで情報発信する際に、「セルフブランディング」という考え方を取り入れました。セルフブランディングとは、自分自身をブランド化し、強みや価値をアピールすることです。情報発信を通して良い印象を与え、「赤木という人物像」を形成することを心がけています。


同時に、赤木研究室(Akagi Lab)のブランドイメージを視覚的に表現するため、ロゴを作成しました。このロゴはサイエンスイラストレーターの小林沙羅さんに依頼しました。私の苗字である「赤木」にこだわり、ロゴには「”赤い木”を採用してほしい」とお願いしました。その結果、とても素敵なロゴが生まれました。これは「Akagi Lab」のA を上部、L を下部に配置することで、「赤い木」をシンプルなグラフィックで表現しています。全体的に丸みのあるフォルムにし、色使いを柔らかいトーンにすることで、みずみずしく、学生さんに親しみやすい雰囲気に仕上がっています(図2)。


図2.Akagi Labのロゴ


ロゴだけでなく、オリジナルのAkagi Labグッズも製作しました。卒業論文提出者にはキーホルダーを、大学院進学者にはマグカップを進呈しています。オープンキャンパスでは高校生にAkagi Labコーヒーを振る舞い、今年度からピンバッチも導入しました。卒論発表や学会発表の際、希望する学生さんにはつけてもらうおうと考えています。白衣、スクラブ、パーカー、Tシャツなどにもロゴを刺繍し、ラボ内でのユニホームとしても活用しています(図3)。


図3.Akagi Labのロゴグッズ


このような情報は内外に発信することが非常に効果的です。少なくとも本学科の大学生にはしっかり情報は届いており、当研究室に対する関心も高いと感じています。本学科の大学生が興味を示すということは、年齢の近い高校生も興味を示すと思います。今後の課題は、いかに高校生に情報を届けるか、という点だと感じています。


■「当たり前」を丁寧に発信する

これまで私は、LinkedInInstagramX(旧Twitter)Lab BRAINSAkagi Lab HPなど、様々なメディアを通じて情報を発信してきました。それぞれのプラットフォームには異なる利用者層やターゲット層が存在するため、発信する情報は少しずつ内容を変えています。そして、その中で私が大切にしているのが「”当たり前”を丁寧に発信する」という考え方です。これは望月 昌一さんから頂いたアドバイスで、「自分にとっての当たり前は、他人にとっては当たり前ではない」という視点に立つものです。


例えば、道の駅で販売されているトマトを想像してみてください。いろいろな農家さんが栽培したトマトが種類豊富に陳列されています。お客さんにとっては、どれも似たようなトマトなので「なんとなく」どれかを購入していることでしょう。毎朝、早起きして収穫している農家さんにとっては、ちょっと残念な話です。ところが、その農家さんの日常をたった一言添えて、「朝採れトマト」と記載するだけで、一気に売り上げが上昇したそうです。農家さんにとっては、毎朝収穫しているのは「当たり前」ですが、お客さんにはそこが伝わっていなかったのです。


■本学にとっての「当たり前」とは

そこで私は、「本学における当たり前」を改めて整理してみました。2020年に本学に着任し、初めて大学キャンパスを見た瞬間、「なんて綺麗でオシャレな大学なんだろう」という印象を受けました。その感動を思い出しながら、私が執筆したのが「福岡工業大学の6つの魅力」です。このブログで「素晴らしく綺麗なキャンパス」「豊かに育つ植物たち」「オシャレな校舎内」「美味しいレストラン」「綺麗で快適で充実した教室」「駅から近い!博多までも電車で15分」など、「外面的な魅力」の6項目について紹介しました。


では本学の「内面的な魅力」はなんでしょうか。研究や教育なども魅力に溢れていますが、それと同じくらい事務組織と教員組織が連携して進める本学独自の大学運営こそが内面の魅力と感じています。「就職支援」「キャンパスメール」「研究支援制度」「学内一時託児所」「LA制度による学習アドバイス」「豊富な国際プログラム」「活発な学生団体」「多様な学生への修学支援」「資格取得による学部表彰」など他大学ではなかなか実施されていない、とても独創的な取り組みです。教員ではなく職員が部活や学生団体の顧問やコーチ、取りまとめを務めているのも、とても珍しい取り組みだと思います。これは学生にとっても、本学で働く教職員にとっても、素晴らしい魅力だと思います。この辺りをしっかり言語化し、内外に発信することが大切だと思います。


■本学は何を成し遂げたいか -言語化と可視化を試してみる-

さて、それでは冒頭の問いに戻りたいと思います。


「本学は学生を確保して、何を成し遂げたいのか?」


「就職率を上げたい」や「質の高い就職を提供したい」など、表面的な目標ではなく、もっと大きな目標が良いと思います。この点について言語化や可視化できるか考えてみたいと思います。


【言語化】

本学のホームページを見てみると育成すべき人物像は「自律的に考え、行動し、様々な分野で創造性を発揮できるような実践型人材」と、明確に言語化されています。また本学にはマスタープランが掲げられており、「全国トップクラスの教育拠点となることを目標とする」と、明確に言語化されています。


すでにここまで言語化されているので、先ほどの問いは次のように言い換えることができるのではないでしょうか。


「本学は実践型人材を育成し、全国トップクラスの教育拠点になって、福岡/日本/世界の何をどうしたいのか?


ここです。この「福岡/日本/世界の何をどうしたいのか?」を明確に言語化することが、大切なのではないでしょうか。そしてこれは、自己満足な目標ではなく、具体的な言葉で、社会問題に対峙した目標がよいと思います。


そして是非、一緒に考える必要があるのが、「それはなぜなのか?」という点です。近隣には多くの私立大学や国公立大学が存在します。そういった近隣大学ではなく、「なぜ本学がこの目標に達成しないといけないのか」の「なぜ?」まで言語化できるとさらに説得力が増します。


【可視化】

本学の目標を可視化することも大切です。具体的な例として、2015年に国際連合で採択された17の目標であるSDGs(Sustainable Development Goals)を見てみましょう。これらの目標は、17の異なる色で区別されたロゴで象徴され、見事に可視化されています。このロゴを見るだけで、誰でもSDGsが頭に思い浮かぶでしょう。その訴求力は非常に高いと感じています。


本学ではマスタープランに対し6つの経営戦略を掲げています。これらの戦略を魅力的なイラストなどによって可視化し、そこからロゴを作ってみると面白いのではないでしょうか。そして、そのロゴを大学からの文書に組み込むことで、各活動がどの戦略に基づいているかが一目瞭然になります。


このように本学の目指す姿を言語化・可視化することで、さらに次の新しい景色が見えてくるのではないでしょうか。


■おわりに

このブログでは、SNSと本学の大学運営に焦点を絞り、思考の言語化と可視化を活用したブランディングと情報発信について、私の考えを紹介しました。実はこの考え方は、学生のビジョン探しにも非常に役立つと考えています。例えば、就職活動の際には、「あなたは弊社に入社して、何をしたいのですか?」と聞かれることがあります。自動車会社の面接で「燃費の良い自動車の開発に取り組みたいです」といった回答はありきたりです。それは夢や目標ではなく、単なる業務です。「自動車開発という活動を通して、自分は何を成し遂げたいのか」-その点をしっかり言語化することが大切だと思います。そして、それを1枚のイラストで可視化しておくことで、自分の頭の中が整理されることでしょう。


SNSを通した情報発信は単なるコミュニケーションに留まらず、自らのビジョンや目標を深く理解し、魅力的に伝えるためのプロセスでもあります。情報発信の秘めたるチカラを活かし、明確なビジョンを追求していくことが、個人や組織の成長に繋がるのではないでしょうか。





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